学習記録

バッテリー用セパレータの特許を読む

年末からバッテリー関係の案件が続いています。バッテリーには、一次電池、二次電池、全固体電池などがあり、そしてそれぞれの製造方法、正極・負極における活物質などに関する数多くの特許があります。

今日はその中でリチウムイオン二次電池用のセパレータについて解説していきますね。

参考にした特許

【国際公開番号】WO2018/173904
【国際公開日】平成30年9月27日(2018.9.27)
【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜、及びそれを用いた電池
【出願人】
【氏名又は名称】東レ株式会社
【発明者】
【氏名】川島 敦道
【氏名】佐藤 剛
【氏名】李 春瑶
【氏名】下川床 遼

セパレータとは

まずセパレータについて簡単に説明します。
そのためには電池の構造から説明する必要があるので、しばらくお付き合いください。

電池は、正極、負極、セパレータで成り立っており、セパレータは、正極、負極の間に配置されています。基本機能は、正極と負極を分離して短絡を防止することです。つまり、正極と負極の間に入って、お互い反応しないように絶縁する機能を持っています。

出典:株式会社UBE化学分析センター

リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで充放電を行っています。つまりセパレータにはリチウムイオンが通るぐらいの小さな穴が空いているのです。

セパレータに求められているもの

この特許で課題として挙げられていたのは、

【0003】
リチウムイオン二次電池においては、より高エネルギー密度化・高容量化・高出力化を目指して開発が進められており、それに伴ってセパレータの薄膜化も進行している。電池作製プロセスや電池安全性を同等にするためには、薄膜化しても従来と同等の強度と溶融熱収縮率を維持する事が求められている。これは膜厚当たりの強度が増加する事を意味する。しかし、ポリオレフィン微多孔膜において突刺強度と溶融熱収縮率は相反する特性であり、これらを両立するのは難しかった。

【0004】
また、セパレータの最大孔径が大きいほど電池の負極と正極は短絡しやすくなる。従って、自己放電を小さくするためには、最大孔径は小さい方が望ましい。しかし最大孔径が小さくなると電池の出力密度が小さくなることがあった。

つまり
1.薄膜化
2.強度とシャットダウン機能の両立
3.セパレータの最大孔径と出力密度の両立 です。

高容量化と薄膜化の関係

高容量化・高出力化とは、例えば車両用として使用した場合、1回の充電で走行できる距離が長くなるということです。そのためには下図のように薄くして電極面積を長くするという方法があります。そのためにセパレータも薄くする必要が出てくるわけです。

出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

突刺強度とは

セパレータには、衝突などにより電池に機械的変形が加わった場合でも、電極間の絶縁性を保つための強度が必要です。その強度を測る方法として「突刺し試験」というものがあります。

出典:fabcross for エンジニア

シャットダウン機能とは

一方で、セパレータは、ただ強度があれば良いというわけではありません。バッテリーに異常発熱が起こって高温状態が続いたとき、セパレータの穴を閉塞して電極間のリチウムイオンの流れを停止し、安全に電池の機能を止める必要があります。これがシャットダウン機能です。

では、どうやってセパレータの穴を閉塞させるのでしょうか?
これはセパレータの材料であるポリマーが溶融することで微細孔が閉塞します。

セパレータにおける強度とシャットダウン機能の両立とは、ある程度の強さは必要だけど、一定の温度に達したら溶ける機能も必要というわけです。

セパレータの最大孔径と出力密度の両立とは

繰り返しになりますが

【0004】
また、セパレータの最大孔径が大きいほど電池の負極と正極は短絡しやすくなる。従って、自己放電を小さくするためには、最大孔径は小さい方が望ましい。しかし最大孔径が小さくなると電池の出力密度が小さくなることがあった。

膜の穴が大きい方がリチウムイオンの行き来がしやすいので出力密度が大きくなりますが、その分ショートしやすい。でも小さすぎると出力密度がちいさくなるので、その両立が課題となっています。

課題を解決するためには

上記の3点を解決するためのポイントとしては「発明を実施するための形態」以降ズラズラ~っと説明されており、ポイントとしては原料として用いる超高分子ポリエチレン及び高密度ポリエチレンの含有量、重合の方法及び延伸倍率を調整すること、とあります。

今回はセパレータについて取り上げましたが、「膜」ひとつとっても用途によって求められている機能が違って大変面白かったです。

まだ実用化はされていませんが、全固体電池も開発が進んでおり、それに関する特許が出ています。全固体電池の入門書も購入したので、次は全固体電池に関する特許も解説したいと思います。

参考サイト及び書籍

サイト
株式会社UBE化学分析センター
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
fabcross for エンジニア
化学技術振興機構(JST)
リチウムイオン二次電池用セパレータ開発動向

書籍

電池ハンドブック

この中でまず買うのであれば図解でナットク!二次電池をオススメします。

2011年に書かれた本なのですが、電池の歴史から始まり、二次電池についてひと通り学ぶことができます。
また最後にある「電池の理解を助ける用語」が大変ありがたい!

著作権の関係で全部載せるのはアウトでしょうから、一部加工して載せます。
こんな感じで、日本語、英語そして解説が載っているのです。仕事の合間に時間を見つけてはコツコツと知子さんに入力しています。

電池ハンドブックも素晴らしい書籍ですが、気軽にオススメできる値段ではないので、電池関係の案件が来たときに購入を検討してみるとよろしいかと。

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