3Mシリーズを読み進めていますが、実施例の部分でNMRについての記述があったので、NMRについて勉強してみました。
分析機器と言えばアジレント社ですから、「NMR装置 アジレント」で検索してみたら、、、
なんと、マジですか?
あれれ、仕方がないので気を取り直して「NMR装置 原理」で検索し直しました。
NMRとは
Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴)の略で、NMR装置とは、原子核を磁場の中に入れて核スピンの共鳴現象を観測することで、物質の分子構造を原子レベルで解析するための装置です。
特徴
・測定試料を非破壊で分析できる。
・測定試料の前処理も他の分析装置に比べ少なくて済む。
NMR装置の構造はこのようになっています。
NMRの原理
ある種の原子核では、原子核の持つ+電荷が自転軸に沿って回転し、磁場が発生します。
この核に一定方向の強磁場をかけると、円錐形を描きながら回転し始めます。
これはラーモアの歳差運動と呼ばれ、核によって固有の周期(周波数)を持っています。ここに歳差運動と同じ周波数(共鳴周波数)のラジオ波を当てると、核磁気共鳴(NMR)と呼ばれる共鳴現象により、ラジオ波のエネルギー吸収が起こります。 共鳴現象の後にラジオ波を切ると、原子核はエネルギーを放出しながら元の状態に戻っていきます。このエネルギーの 放出過程を電気信号として捉えることで、NMR信号が得られます。
なお、NMR法で測定できる核は 1H, 2H (水素)、 14N, 15N (窒素)、 13C (炭素)、 31P (リン)、 19F (フッ素)、 27Al (アルミニウム)、 29Si (ケイ素)、 23Na (ナトリウム)など数多くあり、それぞれの核が固有の共鳴周波数を持っています。
この説明は、株式会社東ソー分析センターから引用した物なのですが、これを読んでて、あ、これってMRIと原理が似てるなと思いました。MRIも巨大な磁場の中に身体を置き、特定の周波数の電波を照射すると身体の水素原子が同じ方向を向きます。しばらくしてこの電波を切ると各組織(水・脂肪・骨・癌など)は独自の速さで元の安定した方向に戻っていく性質があります。MRIは、この戻る速度差を白黒で表現したものなのです。
と思ったら、やっぱり理化学辞典にも記載がありました。
磁気緩和の測定からは原子,分子の拡散,分子回転,電子スピンの運動などの情報が得られる.医学,生物学の分野ではNMRイメージングの方法が多用され,とくに磁気共鳴画像(MRI)は診断に広く用いられている。
[株式会社岩波書店 岩波理化学辞典第5版]
ちょっと点と点がつながった瞬間です。
MRIについては、「これなら誰でもわかる!MRIの原理を超わかりやすく説明してみた」、「15分でわかる(?)MRI―新潟大学歯学部」が大変わかりやすかったです。
NMRの応用例
日本電子株式会社によると、以下のような応用分野があります。
出典:日本電子株式会社
今日はそのうち2つ紹介します。
混合物分析
これはフルーツジュースを解析した図です。
図7右では検体の NMR スペクトル(黒線)がモデルの変位値マップ(カラー)から大きくずれています。これはオレンジの皮に含まれるフロリン(phlorin)に由来する信号で、このことからこの検体はオレンジを搾汁したのではなく、皮ごとミキサー処理したものと推測されます。 他にも産地(図7左)、濃縮還元処理や甘味料等添加物の有無などを解析することが可能です。
分子構造の解析
こちらの動画が大変わかりやすかったです。
Introduction to NMR Spectroscopy Part 1
この動画で使用されていた例を引用します。
とある未知なる物質があり、わかっているのはC3H7Clという分子式だけ。
これから考えられる物質は2つあります。
ClCH2CH2CH3 1-クロロプロパン
または
Cl
|
H3CCHCH3 2-クロロプロパン です。
さて、これにラジオ派を当てます。
そのときにどうなるかというと、Cl(塩素)に注目します。
Clは電気陰性度が高いのでH(水素)の電子を引き寄せます。
出典:高等学校化学Ⅰ/化学結合
つまりラジオ派を当てたときに、電子がClに引き寄せられたために電子がない状態のHと、電子が通常どおり存在するHとが出てきます。
それを波形として表示すると、異なるピークが2つ表示されます。
では、ClCH2CH2CH3 1-クロロプロパンを見ていきましょう。
1の位置にClがあるので、左のHは電子がClに引き寄せられています。真ん中のHは若干引き寄せられており、右のHは影響を受けていません。
そして波形のピークが3つあることがわかります。
Cl
|
では、H3CCHCH3 2-クロロプロパン はどうでしょう?
Clが真ん中にあるので、真ん中のHの電子がClに引き寄せられます。両端のHはというと、どちらも同じ程度若干引き寄せられるという状態なので波形のピークは2つしか現れません。
つまり、この未知なる物質をNMRで分析したとき、波形のピークが3つ現れたら1-クロロパラペンであり、ピークが2つだったら2-クロロプロパンであることを意味します。
以上、現時点で私がNMRについて理解していることをまとめてみました。
参考
・一般社団法人日本分析機器工業会
https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/magneticresonance/nmr/
・日本電子株式会社
https://www.jeol.co.jp/products/nmr/basics.html
・株式会社東ソー分析センター
http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00508/t1712n.html
・厚生連高岡病院
http://www.kouseiren-ta.or.jp/gakujyutsu/2018/05/30/7545/
・15分でわかる(?)MRI―新潟大学歯学部
https://www5.dent.niigata-u.ac.jp/~nisiyama/MRI-15-min.pdf
・Ayumi Media
これなら誰でもわかる!MRIの原理を超わかりやすく説明してみた
アイキャッチの画像は日本電子株式会社から拝借いたしました。
K2challengerさん
この記事とってもわかりやすいです!サイトに記載のテキストや動画だけでNMRを理解できるなんて、すごいですね。
私はこのNMR、食品関係にもよく出てくるものの、理解にかなり時間がかかりました。「1H NMR」って、「1時間」NMRにかけると思っていたぐらいです(笑)
NMRに関しては、理化学研究所のイベントがおすすめです。本物のNMRが動いているところを見せてくれますし、本格的なセミナーもあります。子ども向けのイベントもたくさん用意されていて、小学生たち本当に楽しそうでした!(大人向けというよりも未来の子どもに向けたイベントに感じました)
もちろん1人でも十分楽しめます。
毎年秋に開催、年に1日の開放デーのようですので、ご興味があれば覗いてみてください^^
https://www.yokohama.riken.jp/openday/
Kaoさん
ありがとうございます。
MRIの原理について勉強していたおかげで理解が早かったのかもしれません。
でも個々の応用分野についてはカバーできていないので、
特許ごとに調べていこうかなと思っています。
イベントのご案内もありがとうございます。
子どもが小さいとなかなか行けないのですが、
親子で行けるという点でかなりポイント高いです!!